検査入院記録(入院3日目)

以下のエントリは退院後記憶にもとづいて書いたものです(5月4日記載)
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朝、6時頃目が覚める。巡回に来たナースに心カテ検査の時間を聞いてみると、予定通りならば午後4時頃。ただ、遅くなると午後6時を過ぎてからスタートすることもあるらしい。午前に一組、午後に三組の予定が入っている。午後の一組目が隣のNさんであり、三組目が私である。検査だけなら1時間以内、治療が入ると2時間に達することもあるそうだ。急ぎの患者を先に行うため、何も症状の出ていない私は一番最後に回されたのだろう。昼食は抜くようにとのこと。一日退屈しそうな予感がする。

歩いたときに、鼠径部のあたりに少し痛みを感じた。触ってみると少し腫れているように思われる。今日は心カテの予定なのに、大丈夫だろうかと不安になった。巡回に来た主治医のN先生に診察してもらったところ、毛穴にごみが詰まって腫れているだけであり、カテーテルを挿入する動脈部からは離れているので全く問題ないということ。普段は気にならない程度の痛みなのだが、ナーバスになっていたようだ。「今日はよろしくお願いいたします」とN先生に改めてお願いした。

前回のときは、心カテ自体は特に苦しくはなかったが、鼠径部からカテーテルを挿入した後、足を動かさないように3時間ベッド上でじっとしていなければならないのが極めて辛かった。そのことを考えると落ち着かなくなるので、高村薫の本を読んで時間をつぶした。いつも思うのだが、この作家の文体は読みづらい。

点滴と酸素吸入をするということで10時頃にナースがやってきた。何の点滴かはよくわからないが、血液を固まりにくくするものだろう。明日の朝まで付けたままにしておかなければならないらしい。隣のNさんのところにも同じ点滴のため別のナースがやってきて作業している。“私の場合、Nさんの3時間後に検査を受けるんだから、Nさんの3時間後から点滴をすればいいじゃないか、少なくとも昼過ぎにしてほしい”と思ったが、口には出さなかった。酸素は壁に設けられているバルブから直接鼻につながれ、ナースが流量を調節した。

点滴により片手を拘束された状態で本を読むのはかなり大変だが、高村薫は昼過ぎに読み終わって、今度は大沢在昌に移行。こちらは読みやすい。

今日は妻は午前中にいったん病院に顔を出して帰った。今日に限って色々な用事が入っているらしい。“検査の始まる前に来る”と言っていたが、時間が不明なので午後4時か5時頃になりそうだと伝えておいた。

そうこうしているうちに、ナースがやってきて、時間なので準備するようにとの連絡。時間を見ると午後4時。予定の時間通りである。まだ妻は来ていない。病室の自分のベッドの上で全裸となり、ベッドに寝た状態で体の上に浴衣のような検査着?を羽織るようにかけ、さらに布団を上からかける。何も服を着ないで上から布団をかけられているのと同じであり、極めて心もとない。点滴もそのまま、酸素は5リットル程度のボンベにつなぎなおされた。前回の心カテのときには周囲の様子がよく見えなかったので、今回は眼鏡をかけていても良いか聞いてみたが、金属製のものは身に付けないほうが良いとのこと。残念。

準備を終えると、2人のナースがベッドを押して、心カテを行う検査室(CCU)まで連れて行ってくれた。前回のときもそうだったが、外来患者がたくさんいる廊下をベッドに横たわったまま運ばれていくのは不思議な感覚である。自分が一般の外来患者のときは、ベッドで運ばれていく人を見ると、重病の人だ気の毒に、とみていたのだが、今回もみんなそう思ってみているのだろうか。行く道すがら、目の届く範囲を確認したが、妻が来ている気配はない。間に合わなかったようである。

CCUは、一般の病棟から離れた箇所にあり、日の当たる長い廊下をゴトゴトとナースが押していく。天気が良いせいか思いの外、暖かく快適である。ナースによれば夏は直射日光のせいで非常に暑いのだそうだ。ちょうどいい時期なのだろうか。検査室の前では、ちょうど治療を終えた前の患者が出てきたところであり、入れ替わりで中に入った。

検査台と大きなモニタ四つほど目に入った。歴史のある古い病院だが、このCCUはできてから比較的新しいせいか、建物も設備も新しい。N先生と周囲にナースが何人かいるのが見える。病棟のナースは全員女性だったが、ここには男性のナースも2人ほどいる。患者をベッドから検査台の上に移動させるときなどの力仕事のときに活躍しているようだ。今回の私の場合は、ベッドから検査台の上に自分の力で移動することができるため、特に男性のナースの力を借りる必要はなかったが…。

検査台の上に移動後、全裸で仰向けに横たわった状態でしばらく放置される(苦笑)。ナースが鼠径部に消毒液を塗布。ヨードの臭いが立ち込める。早く終わってほしいと思っていたら、青い不織布を全身に被せられた。はさみで顔の箇所を切り取られ、周囲の様子がよく見えるようになった。よくみると、周囲のN先生もナースも皆同じような不織布の手術着である。検査台の幅がかなり狭く感じ、掴まっていないと落ちそうな感じがする。うまい具合に検査台のちょうど左手の位置に握り棒が設けられており、これに掴まった。右腕に血圧計が取り付けられた。検査の間中、脈と血圧をチェックするためである。

N先生がちょうど右の位置にやってきて、「それでは検査を開始します。よろしくお願いします」という合図で、検査が始まった。ちょうど視界の右隅に壁掛け時計が目に入った。午後4時20分である。

最初に、鼠径部に麻酔のための注射。あまり痛みは感じない。その後、動脈に穿刺を行った。「カテーテルが入ります」という先生の声がするが、何か軽い異物感があるだけで、全く痛みはない。最初気づかなかったが、検査台の上方にはカメラのようなものがあり、だんだんと目の前まで移動してきた。カテーテルの移動に伴って進んでいるのだろう。視界の左隅にモニタが見えるが、眼鏡をかけていないため、詳細な映像まではよく見えない。

造影剤(ヨードらしい)を流すときに、突然体の中から熱いものが生じて、体内を移動するような感覚があったが、これも前回と同じ。N先生の言うがままに、体を右に向けたり、左に向けたり、息を吸ったり吐いたりしながら撮影。ちょうど胃のレントゲン検査のときのような感じである。ただ、バリウムを飲んで横にしたり逆さにされたりするときの苦しさに比べると、極めて楽である。最後に、直径5cmくらいの球体をカメラと体の間においた状態で写真を撮影して終了。後で聞いた話だが、これは心臓の大きさをチェックするための基準(メジャー)らしい。

検査は比較的早く終了した。終わった時間を確認すると午後5時である。だいたい40分というところだろうか。カテーテルを抜いた後、しばらく止血のために穿刺した箇所を圧迫。その後、ガーゼを当てた状態で砂袋を置き、ガムテープのようなものでぐるぐる巻きにされる。止血している間に、N先生が説明を行ってくれた。前回の治療時とほとんど変わっておらず、再狭窄もないため、今回はPTCAなどの治療を行う必要はなく、検査だけで終了するということ。一安心である。

(続きは後ほど)