代理人事務所の構造的リスク?

コンフリクトの問題もあって、分野ごとにいくつかの代理人を使い分けています。当然ながら代理人によって得意分野もありますし、明細書の品質も癖も一様ではありません。しかしながら、依頼する側としては一定の水準は満たしていてもらわないと依頼する意味がありません。この点で、昨年、ある代理人を使っているときに問題だと感じたことがあります。

かなり大きな規模の事務所ですが、ほとんどが非弁理士の特許技術者(名刺に弁理士と書かれていない、いわゆる補助員)で、弁理士は数えるほど。これまでは明細書の品質が安定していたので安心して使っていたのですが、あるとき、いきなり明細書の質ががくっと落ちました。

この事務所では、一人が書いた明細書を複数人でチェックしているので品質が安定している、と聞いておりましたが、とてもそうは見えません。こちらから提出した発明者の草稿もあまり出来がよくなかったのですが、全体的に発明の本質を理解しておらず、技術的な言葉を並べて体裁だけ整えた明細書になっています。明細書の後の方に出てくる概念が何の説明もなく、前の方に書かれていたり、サブクレームのうち実施可能要件が満たされていないものがあったりと、チェックに非常に時間がかかり、知財部の新入社員の明細書を添削しているような感じでした。

担当者は最近登録されたばかりの新人弁理士さんでした。電話で本人と何度かやりとりしましたが、あまり技術には詳しくないようで、こちらの意図することがうまく伝わりません。口頭で“○○の内容に関して、もう少し肉付けして補充をお願いします”と言っても、全く肉付けがなく、こちらの言ったことがそのまま文章になっているなど、いらいらが募るばかりです。

これまでこの事務所において、新人の特許技術者に明細書を作成してもらったことはありました。このときは仮に技術に詳しくなかったとしても、同じ特許技術者の先輩も入って数人で検討を行なってくれ、最終的なアウトプットとしては、許容範囲に入るものとなっていました。しかしながら、この新人弁理士さんに対しては、誰も協力していないように見えます。本人の性格の問題なのか、事務所の問題なのかはわかりませんが…。

似たような形態(少数の弁理士が多数の技術者を統括)の別の事務所の特許技術者から企業知財に転職した知り合いに聞いてみたところ、彼が所属していた事務所では、“特許技術者は弁理士先生の明細書に対しては口出ししない風潮があった”とのこと。

今回の場合も、この事務所で大多数を占める非弁理士の特許技術者と、弁理士との間に心理的な障壁があるのではないか、と気になりました。特許技術者が弁理士の明細書をチェックすることに抵抗があるのか、弁理士のプライドが邪魔して特許技術者に明細書をチェックして欲しいと頼めないのか…。

結局、この新人弁理士さんにいくら言っても埒が明かなかったので、以前から中心的に担当してもらっているベテランの特許技術者に電話して、この新人弁理士さんを支援してもらうようにお願いしたところ、明細書全体が修正され、完全に満足できる出来ではありませんでしたが、格段によくなって戻ってきました。

この事務所の場合、請け負っている仕事量に比べて弁理士の数が少なすぎるため、全面的に特許技術者(補助員)に頼らざるを得ない状況に陥り、新人の弁理士を教育する余裕がないようにも思います。

これまで依頼する側としては、品質・コスト・納期さえ水準を満たしていれば、OKであり、どのように解決するかは代理人側で考えるべき問題だと考えていたのですが、経験豊かな弁理士のみで構成された事務所の方がこういった面倒がなくて良いと認識を改めました。