一太郎判決に対するblogの影響

昨日(一昨日)判決が出た一太郎判決の件、読売の朝刊でも一面トップでした。

判決速報を、印刷して子供の運動会の最中にのんびりとテントの中で読もうと思っていたのですが、実際バタバタしてそれどころではありませんでした(笑)。それに、よく考えてみれば、自宅のインクジェットで速報を印刷するとページがかさんでインクがなくなってしまうので、奥さんに怒られてしまうのは目に見えてます。

そんなわけで、速報をブラウザ上でざっと斜め読みしました。単なる一企業の知財部員のたわごとと捉えていただいても構いませんが・・。

今回、ジャストシステム側が新たに提出した資料に対して、ネット(特にblog)の存在が多大な影響を及ぼしているのではないか、と思える点が極めて興味深く感じました。

原審を簡単に振り返ってみます。まず、「進歩性欠如」による無効理由を有する特許権の行使は権利濫用であるという、キルビー判決に基づく主張を行い、そのための無効資料として、

  1. 引用例 :「特開昭61-281358号公報」(ワードプロセッサの機能説明表示方式)
  2. 刊行物1:「JStarワークステーション 昭和61年4月25日発行」
  3. 刊行物2:「日経バイト 昭和61年5月発行」128頁
  4. 刊行物3:「一太郎Ver.4活用編」33頁及び34頁

を挙げて、これらの組み合わせによる特許発明への容易想到性を主張しています。しかし、一歩及びませんでした。詳細は原審判決を見ていただくとして、簡単に言えば、ジャストシステム側が無効資料として挙げたものは、「キー」により特許発明の機能を実施するものであり、これを「アイコン」に置き換えるのは容易ではないと、見なされたわけです。

これに対して、今回の二審では、「新規性」又は「進歩性」の欠如による無効理由があるとして、特許法104条の3第1項に基づき,特許権の行使が認められない旨を主張し、以下のような追加の無効資料を提出しています。

  1. フレッド・ストーダー著「ハイパープログラマーのためのハイパーツール」(マックチューター1988年7月号)
  2. デニー・スレシンジャー著「ヘルプ・ドキュメンテーション・システムの概説」(マックチューター1987年11月号)
  3. ナショナル・インストルメンツ社「ラブビュー~マッキントッシュのための科学ソフトウェア~」(1986年発行)
  4. フレッド・ストーダー著「ハイパーカードのユーザーに優しいプログラミング」(マックチューター1987年10月号)
  5. ヴィッキー・スピルマン=ユージン・ジェイ・ウォング著「HPニューウェイブ環境ヘルプ・ファシリティ」(1989年8月発行)

追加の資料1~3は、特許発明と同一であるとして新規性欠如、資料4~5は他の無効資料との組み合わせ容易により進歩性欠如の無効の抗弁を行なっています。結論は既にご存じの通り。

で、今回新たに提出した無効資料5つのうち、4つが「Mac」関係です。原審では全く影も形もなかった「Mac」が突如浮上した原因として、私は、原審の判決(2005年2月1日)からわずか2日後に書かれたshiomanekiさんのblogの記事

Macユーザーとして松下電器に抗議する

を挙げたいと思います。これによれば、

古くからのMacユーザーなら知ってる通り、アイコンを選択することによりその機能を説明するヘルプ機能は、System7のBalloon Helpを待つまでもなく、System6の時点で既知の技術でした

とのこと。さすがに、ここで紹介されている無効資料をそのまま利用することはしていませんが、いったんこの情報がインプットされれば、芋づる式に発掘していくことは容易でしょう。この記事への膨大なトラックバックに全て目を通したわけではありませんが、他に無効資料が書かれているサイトがあるのかも知れません。

進歩性欠如による無効主張は、一般的に新規性欠如による無効主張よりも認められる可能性が低いため、我々知財部員が無効資料を探すときも、組み合わせ数がなるべく少なくて済むようにするのが常識です。しかし、ピンポイントの無効資料というのは、そう簡単にはみつかりません。今回の場合、ネットの大衆が極めて短時間に自発的に無効資料を探し出してくれた、言い換えれば、いわゆる「公衆審査」が行なわれ、ジャストシステムに対して有利に運んだと想像しています。

実際のところは、ジャストシステム知財担当者に訊いてみないと、わからない部分ですが・・・。