知財高裁:キヤノン・インクカートリッジ事件判決に思う

昨日、知財高裁の大合議で、キヤノン vs リサイクル・アシスト の判決が出ましたね。判決の詳細は多くの方々が解説して下さっているので、ここでは触れませんが(というか、ダウンロードして印刷はしたものの、技術的な事項が非常に多いためとばし読みした程度です(苦笑))、解説記事を読む限りでは、キヤノンの特許戦略のうまさが光っているのではないかと感じました。

判決文によれば、特許権が消尽しない2つの類型として、

  • 第1類型
      製品としての本来の耐用期間を経過してその効用を終えた後に再使用又は再生利用がされた場合
  • 第2類型
      第三者により特許製品中の特許発明の本質的部分を構成する部材の全部又は一部につき加工又は交換がされた場合

の2つを挙げ、そのうち、今回のリサイクル・アシストの実施は第2類型に該当すると見なしています。

第1類型に該当しない理由は、「インクをすべて消費した後でも,カートリッジ部分はまだまだ使用できる」ためです。これに対して、カートリッジの向きが変わってもインクが外部に漏れないようにする工夫や、インクを含浸させるスポンジをカートリッジ内に複数収めることでインクの壁を形成する工夫などを挙げ、これらを実現するために充填する一定量のインクが「発明の本質である」と見なし、第2類型に該当するものとしています。

以下、想像を交えた感想です。

基本的に特許の裁判は、相手の主張に対して言い返すための記載が元の明細書にどれだけ含まれているかが重要です。通常は、インク・カートリッジの発明であれば、カートリッジの機構に重点を置いて明細書を作成するでしょうから、消耗してなくなってしまう「インク」が特許発明の本質的部分を構成する部材である、等と主張し得る内容を含むような明細書は、なかなか作れないのではないでしょうか。というか、そういう発想はなかなか出てこないと思います。

キヤノンは一つの発明をあらゆる角度から眺めて、特許網を築くのに長けています。キヤノンが本当に守りたいと考えている技術については、なかなか穴が見つからない、という話を良く聞きます。この出願がなされた平成11年当時、既にインク・リサイクル業者がかなり出てきていたものと思われますから、このようなリサイクル業者の侵害態様を予想して、このような「インク」に重点を置いた出願をうったのかも知れません。

いずれにせよ、特許により事業を守るという観点から見ても、極めて学ぶところの多い判例であると感じます。