神戸大学教授特許捏造問題に一応の決着

データ捏造 神大2教授に訓告神戸新聞Web版より)

 神戸大学が、ダイヤモンドを使った工具の発明について特許を出願した際に、担当教授が実験していないデータを捏造(ねつぞう)し出願書類に記していた問題で、神戸大の調査委員会(委員長=北村新三理事)は十三日、「未実施のデータを含んだ特許の出願は、研究者の倫理に照らして不適切」とする調査結果を発表、教授ら五人を訓告や口頭厳重注意とした。

 調査によると、問題となった工具の発明にかかわったのは、連携創造センターの中井哲男教授▽工学部の大前伸夫教授▽同、田川雅人助教授。

 このうち中井教授が、必要な実験装置がないにもかかわらず、大前教授らが出した実験データを参考に、あたかも実験を実施しデータを得たかのように出願書に書き込んだ。

 大前教授は出願前、「こんなことまで書いて大丈夫か」と何度も確認したといい、中井教授は「書き過ぎた」と反省しているという。

 神戸大は、この出願について、「違法行為ではないが、重大な問題がある」と判断。同日付で中井、大前両教授を訓告、田川助教授を口頭厳重注意とした。また、管理監督責任を怠ったとして、眞山滋志連携創造本部長と、薄井洋基工学部長も口頭厳重注意とした。
(後略)

この件では、chem@uさんのブログの記事で、企業の技術者出身であった中井教授が関与していた可能性を挙げておられましたが、その通りだったようです。私も以前の記事で書きましたが、大前教授が一人で行なったというのはどう考えても不自然でしたし、教授一人に責任をかぶせて終わりにして欲しくないと思っていましたので、事実が明るみに出て、良かったと思います。また、懲戒ではなく訓告で済んで良かったとも思います。

まあ、もともと特許の世界では当然成り立つだろうと予想されるデータを盛り込むことは慣習として行われています。したがって、これを懲戒処分にするとすれば、波及する影響が大き過ぎます。といって、これだけ騒ぎになってしまっている以上、無実として放免するわけにもいかず、大学側が懲戒には当たらない訓告処分で手を打たざるを得なかったのは必然の結果だったと思います。

ただし、“違法行為ではないが、重大な問題がある”とわざわざ断っていることから、今後は(少なくとも)神戸大学において同じことを発生させることは許されないことが明確になりました。手元の読売新聞の関西版の記事によれば、神戸大学は“今後、研究者の行動規範を策定し、研究者倫理の徹底を進める”とあります。

リスクマネジメントの観点から、他の大学もこのような規範を策定・導入することは時間の問題です。したがって、企業側としては、大学との共同研究においては、出願明細書に記載するデータの真偽については極めて慎重な姿勢で取り組む必要があると思います。特に、実際に行なっていない想像上の実験データを実施例として「○○を行なったところ、△△のような結果が得られ、本発明の効果が確認された」などと、あたかも実験を行なったかのように過去形で記載することは避けなければなりません。もし、実際に行なっていない(が発明思想から考えて当然成り立つはずの)内容を書く場合は、出願時には発明の構成だけの記載に留めておくべきです。出願後1年間は先の出願に対して新しい内容を追加して出願できる国内優先という制度がありますので、これを利用して、実際に行なったデータを実施例として補充するのが良いと考えます。