米国特許についての私見

今日は、先日コメントで質問をいただいたUSパテントの件について。

先行技術と似た構成で、かつUSにも出願されている特許について、注意等(ノウハウなら無理ですけど)もまた、記事にしていただけたら、うれしいです。

以下の内容は個人的な私見であることを予めお断りしておきます。

米国の方が日本に比べて通りやすいという印象があります。私が対応している案件でも、米国ではどんどん成立しているのに、日本ではすんなり通ることはなかなかありません。これは、日本では、特許法の第29条第2項の進歩性による拒絶理由が大半なのに対して、米国ではたいていの場合、米国特許法の102条、すなわち新規性があれば通ってしまうことが多いことに起因するのではないかと感じています。米国特許庁のOA(オフィスアクション)も、102条(新規性)に関するものが多く、日本の進歩性に相当する103条(非自明性)は少なめです。

米国のローファームにしばらく滞在していた知り合いから聞いた話では、法律で有色人種等の高い教育を受けられない人々を審査官として採用しなければならない事情がある、とか、審査官を特許弁護士へのキャリアパスと考えている人が多く、人がどんどん辞めるため審査官が育たない、などの理由から、審査官のレベルは日本や欧州に比べてかなり低いのだとか…。

いずれにしても、日本では進歩性違反のため成立しないような特許でも、米国では成立してしまうことが多いです。しかし、一度成立してしまえば、つぶすのは容易ではない。特に、進歩性については、日本でも裁判に行けば判断が分かれます。米国で日本の審査において進歩性の判断で引用された文献を利用して再審査請求を行なったとしても、特許が無効となる可能性は高くないと考えられます。

また、米国はご存じの通り、何かと言えば裁判のお国柄です。審査が甘くて無効理由を含んだ特許が成立したとしても、裁判で解決すれば良いという考えが根底にあるのかもしれません。しかし、米国における侵害訴訟の裁判はたやすいものではありません。弁護士の費用が高いのに加えて、ディスカバリー手続きがあります。、被告の会社は相手の弁護士の立ち会いのもと、知財・営業・製造の全分野において、相手が必要と認める証拠書類等を全て開示しなければなりません。非常に大規模なものとなり、数億円の費用がかかるケースもざらにあると言われています。さらに、ディスカバリーで故意であったという証拠が見つかれば、三倍賠償制度が適用され、ヘタをすれば会社が傾くほどの極めて巨額の賠償金が必要となります。

このように米国において特許訴訟に持ち込まれたら、非常に大きな問題です。したがって、多少相手の特許に無効理由があると思っても、米国における訴訟の費用リスクを考えると、示談ですませてしまうケースも多々あると思われます。もちろん、示談交渉では、ライセンス料を値切るため、“無効理由があるからホントは払う必要はないと思うんだけど、裁判で決着をつけるのは時間と費用が惜しいから払ってやるんだぞ”、とか色々言って相手の特許にケチをつけるんでしょうけどね。

以前の記事で、“日本では特許になりそうもないが米国に出願されているので色んな意味で要注意”と書いたことがありますが、これは以上のような理由に寄ります。