手続補正書と意見書の重み

Pecanが知財部に異動になったばかりのとき、先輩に“特許の仕事の中で一番面白いのはどんなところですか”と訊いたことがあります。その先輩は事務所の出身で、弁理士登録してから20年以上になるベテランで、会社の知財部を古くから支えてきた方です。

上の質問に対して、Pecanはクレームをドラフトすることかなとか、権利行使していい条件でライセンスできたときかな、とか想像していましたが、即座に、“中間処理だね”という返事が返ってきましたのには驚きでした。先輩によれば、“拒絶理由通知から審査官の意図を読み取るのが何よりも面白い”とのこと。さらに“中間処理では、補正して先行技術と構成上の差を出せるかどうかが全て、意見書は補正だけでは少し弱いかなと思われるときに、補強する程度で、あまり重視していない”という意見でした。

知財部に来た当時、包袋禁反言のこともよく知らず、大作の意見書を書いては満足していたPecanにとって極めて驚きでした。そういえば当時、20ページにもわたる意見書を書いたことがありました。読むのが大変だったのか審査に時間がかかり、提出して2年近く放置され結局拒絶査定となりました(笑)。

早速、その先輩の意見書をいくつも出力して研究させてもらいました。毎回実にシンプルそのものです。しかし、対応した中間案件において90%以上が登録になっている。あれから数年経ち、Pecanが中間処理した件数も3桁を超え、ようやく先輩の言っていたことが、実感として感じとれるようになってきました。拒絶理由通知を通して審査官と会話しているという感覚とでも言ったら良いでしょうか。

確かに補正が全てと言っても過言ではない気がします。拒絶理由を解消するためには、補正によってクレームレベルで引用例と明確な構成上の違いを設けてやれば十分。この補正ができれば、中間処理の7割が終わったも同然だと思います。しかし、この補正をするためにいつもどれだけ苦労することか…。引用例との違いを的確にするための記述を目を皿のようにして探し回って時間の大半を費やしていることが多いような気がします。

いったんクレームレベルで明確な違いを出すことができれば、シンプルで骨太な強い論理を構築できますから、意見書もすらすらと書けます。クレームレベルで明確な違いを出せないときは、意見書の主張に頼ることになりますが、こんな時は得てして厳しい結果に終わることが多いです。意見書が有効なのは、審査官が誤解しているときに説明したり、補正の内容を誤解しそうなときにフォローしたりする程度ではないでしょうか。

ところで、最近、審査官の方が何人か来社され、生の意見を聞く機会がありました。色々な話を承った後、ひとしきり雑談をしていたとき、意見書と手続補正書、どちらを重視されるか、と伺いました。異口同音に“手続補正書”とのご返事でした。考えるまでもなく、それぞれの【あて先】を見れば一目瞭然。手続補正書は特許庁長官宛、意見書は審査官宛です。最初から重みが違うのですね。