特許製造業としての特許事務所

今日は仕事納めでした。昨日チェックした案件については、事務所に出願依頼したので、今月は代理人ばかりで8件ほど。内製でも2~3件やる予定でしたが、予定外の仕事がたくさんあり、全く手つかずでした。特に以前書いた新規開拓中のトライアルをしている事務所(先の記事では「第2の事務所」とした方)が予想外にまずく、予定していた出願ができないばかりか、余分な時間まで費やしてしまいました。

一件目で担当していただいた弁理士の先生には非常に良い明細書を書いていただけたので、二件目として米国出願予定のある重要な案件をお願いしました。担当していただいたのは、前回の先生ではなく、特許技術者の方でしたが、クレーム案をいただいた時点でがっかり。米国出願予定と断ったのに、構成要件に「穴部」が新たに追加されている、勝手にジェプソン形式に書き直されている、further comprising形式のサブクレームでこちらの案につけておいた「さらに」がサクッと削除されている、こちらの案には影も形もなかった「○○手段」が登場しまくる…。電話で話しても全く手応えがなく、こちらの言っていることがどれだけわかっているか甚だ心許ない限りです。

とりあえず書き直していただきましたが、再提出していただいたクレーム案もイマイチだったので、机上に放置したまま年越しすることになりました。最大の問題は、この方がつくる明細書については、信用できなくなってしまったため、一言一句細かくチェックする必要があるということです。例えが悪いですが、戦力にならない新入社員を預かったようなもので、何のために代理人に依頼したのかさっぱりわからない状態です。

ここで愚痴っても仕方ないのですが、ふと以前読んだ、知財業界で仕事スルの記事を思い出しました。日米で特許事務所を経営しておられるyoshikunpatさんのブログで、知財業界に対する忌憚のない意見をいろいろとうかがえるので、前に書いた特許男のブログとともに定期的に巡回させていただいています。

Competitorとしての企業知財部員
 企業側からみたら、企業知財部員に仕事をさせるより、特許事務所に仕事をさせる方が得でなければ、特許事務所に仕事を出す意味が無い。特許事務所側から見たら、企業知財部員よりも、品質X価格の総合パフォーマンスで上回らなければならない。
 この競争に負けるようでは、特許事務所が世の中に存在している価値が無いことになるのに近い。
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 特許製造作業は、ひとことで言ってしまえば、職人の手仕事の世界だ。大企業のような巨大な組織が有利ではない。むしろ、不利だと思う。普通に考えたら、特許事務所に軍配が上がるはずである。

知財法律事務所 (人材の流動性)
 発明を中心にみた場合、発明・開発仕事は第1次産業、発明を加工して特許を作る弁理士仕事は第2次産業、特許を利用する(特許権訴訟やライセンスを扱う)弁護士仕事は第3次産業と位置づけることが可能と思います。
 この物差しを前提に、発明の第2次産業を構成するのが特許事務所、第3次産業を構成するのが「知財法律事務所」というように違いを説明できるように思います。

「特許製造業」…。事務所は特許を「製造」する第2次産業であると言い切ってしまうところが爽快です。第1次産業である発明開発に対して、特許としての価値を付与しているという自信でしょうか。とにかく仕事の内容を見てくれ、というプロの覚悟が伝わってきます。yoshikunpatさんの意識からは、弁理士の業務で定められている「他人の求めに応じ…手続」するという代理人(代書屋?)という枠は既に取り払われているのでしょう。

明細書作成は、“職人の手工業の世界”という意見にも同感です。ただ、特許を製造する「メーカー」となるからには、品質の管理にも最大限の努力を払う必要があるかと思います。いくつかの事務所とおつきあいしてみて思うことは、優れた明細書職人はどこの事務所にもいるけれども、その職人技が個人の段階で留まっていることが多いということです。今回の「第2の事務所」もこの問題ゆえに、最初に担当していただいた弁理士の先生を指名するしかないのですが、そういう優秀な方は得てして忙しくなかなか時間が取れません。

誰に頼んでも品質のバラツキがないという事務所はなかなかありませんが、これは“職人の手工業の世界”である以上当たり前であって、叩き上げの優秀な明細書職人が、好きこのんで自分の競争相手を事務所内に増やしたいと思うはずがありません。ただ、今後、事務所が淘汰されずに残っていくためには、こういった個と全体の調和をうまくとり、事務所としての品質バラツキを抑え、誰が担当しても一定水準以上のアウトプットが得られるようにしていく必要があるでしょう。この辺りは経営者のマネジメントの問題だと考えます。