インビジブル・エッジ

久々に書きます。昨年知財関係者の間で流行った本ですが、ようやくちょっと前に読み終わりました。Amazonのレビューにも投稿しておいたので内容と全く同じですが・・。

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先日GoogleMotorola Mobilityを約1兆円で買収するというニュースが流れた。Googleの目的は色々と取りざたされており、Google自身もAppleのように携帯電話製造に乗り出すのではないかと見る向きもあれば、Androidのプラットフォームに参入しているパートナー企業の携帯電話メーカーを訴訟の脅威から守るために、Motorola保有している特許を入手したに過ぎないという見方もある。

このインビジブル・エッジを読んでいる最中だったので、このニュースに接したとき、Googleの狙いは後者以外にないと思った。なぜなら、物づくりをしている企業はそれだけで弱みを抱えているからだ。すなわち、携帯電話メーカーであれば、規格にからんだ必須特許を使わざるを得ず、強い交渉力を得ることができない。

この本では、物づくりを行なっている企業のことを、中から外に向けて石を投げることができないので「ガラスの家」と読んでいる。これに対して、イノベーションに注力して有効な特許を持っていながら物づくりをしていない企業を「サメ」と読んでいる。このサメ型企業の典型はQualcommであり、物づくりをしている企業に対して強力な知財による交渉力を有し、莫大なライセンス料を得ている。

Googleはもともと物づくりをしていなかったので、強い特許さえ手にすれば、Qualcommのようにサメ型の企業となることができる。それに対して、AppleMicrosoftなど、Android陣営に対して攻撃を仕掛けてくる相手は、物づくりをしている以上、「サメ」ではなく「ガラスの家」に過ぎない。したがって、物づくりをしていないGoogle知財という武器を手にすれば、すぐに優位な位置に立つことができる。Googleがこの有利な立場を捨ててまで物づくりに固執することは考えにくい。

なお、このレビューを書く直前の9月7日に、Androidのプラットフォーム上でAppleと訴訟を繰り広げている台湾のHTC社に対して、今回Motorolaから得た特許を含む9件の特許を譲渡している。これは、最前線で戦っているHTCに対して、強力な武器弾薬を補給したような形となっており、先に述べたようにGoogleは特許をAndroidのプラットフォームを訴訟の脅威から守るための盾として利用していることが明らかだ。

インビジブル・エッジという題名からは、「見えない刃」という言葉を連想するが、このエッジという言葉は「競争優位」という意味もある。上述したGoogleの例にもあるように、現在は見えない武器としての「知財」をどのように利用するかでめまぐるしく競争戦略上のポジションが変化する時代である。この本の著者はBCG(ボストン・コンサルティング・グループ)において経営戦略の研究を行ってきた人達であり、ポーター教授の「競争の戦略」の内容を踏まえ、業界の競争環境を分析するフレームワークであるファイブフォースの中における知財の占めるポジションについても明確にした上で話を展開している。それゆえに、話の流れも明確で極めてわかりやすい。従来よくあった知財関係者による単なる思いつきや事例紹介の本とは一線を画していると感じた。知財関係者に限らず、経営に興味のある方々であれば、決して読んで損はない本だと思う。