読書記録:「フリー 〈無料〉からお金を生みだす新戦略」

書いてある事例は平易でわかりやすいのだが、全体を通して読むと、何が書いてあったのか明確な言葉で表現することが難しく、しばし考え込んでしまった。

この本によれば、フリーの事例として記録に残っているものは19世紀にまでさかのぼるという。決して最近になって新しく出てきた考え方ではない。ただ、現在はインターネットなどのテクノロジの進歩発展に伴って、フリーの事例も幅広い分野に拡がっている。しかしながら、まだ評価や分析が十分になされているとは言えず、理論として首尾一貫したものがあるわけではない。この本でもある程度の法則性を見いだし説明しているが、漠然と読んでいるだけでは、単に事例を羅列したとしか感じられず、印象に残らなかったのかも知れない。

読みながら取ったメモに、「フリーの意義は、間口を広く低くすることにより、これまで知られていなかった潜在的ニーズ(ロングテールに属する顧客層等)を 掘り起こすということか?」とある。基本的には、今感じている印象もそこから大きくはみ出るものではない。常識の枠に縛られている気がしないでもないが。

ところで、この本では、“物事がフリーになろうとする動きを押しとどめる方向に作用する”のが知的財産である、と喝破している。関係する個所を少し引用してみよう。

ビジネスにおいては企業は知的財産権法を利用して、人為的にアイデア不足を生みだすことでお金を儲ける。それが特許や著作権や企業秘密だ。つまり、アイ デアは多くの人に伝わるのが自然だが、その流れをしばらくせき止めて利益を上げようとしているのだ。(中略)だが、最後には特許が切れて、秘密は外に出る。アイデアを永久に止めておくことはできない。(111ページ)

なかなか巧みな表現である。しかしそうなると、特許屋の仕事って何だろう。フリーになろうとするアイデアを堰き止めて、エネルギー差を人為的に作り出そうとするダムのような仕事だろうか、などと 考え込んでしまった。

ただ、このあたりは“物事がフリーになろうとする法則”に逆らうことなので、うまくやらないと面倒なことになりそうだ。この本の14章では、“中国やブラジルはフリーの最先端を進んでいる”として、国全体が知的財産権をあまり重視しない方向に進んでいる事例が多く示されている。欧米の医薬品メーカーが保有するHIVウィルスの薬の特許に 対して、ブラジルの閣僚(保健大臣)が強制実施権の発動をほのめかせて、薬価を半額以下に値引きさせた事例もある。BRICSがビジネス上大事になってくるから、これまで欧米に出してきたように特許を出願せよ、などと声高に叫ばれてきているが、これらの国が、知的財産権を適当なところで利用して適当なところで無視する国策をとり、先進国が手痛いしっぺ返しを喰らう可能性も多いにある。

フリーから話が脱線したが、いずれにしても、今後のパラダイムシフトを考える上で大変参考になる面白い本である。